瞬間の気分に作用している事情や、さらにその気分のなかで働いている事情や、しかも価値判断のなかでさえ働いている事情まで含めたすべての事情に気づいて、ただ他人を観察し、他人のなかや至る所で支配している法則を観察することだけが、ごちゃごちゃに縺れ合って足を停めていた。何もかも腹立たしい。別の効果のために働いているはずの声がひどく不幸に吹きまとわれていた。
疲れていて、少し寝ぼけている。疲労からくるぼくの焦燥と悲哀はその場所を突きとめることができないためにあまり大した犠牲は要求しないだろうし、他人に知られず遠くから眺めることで満足するだろう。眠い気分のなかで無感覚になるまで駅から二時間ばかり夢を見に行った。夢のなかで跳梁して見境いもなく剣を振り回し、山のなかで迷ってる羊か猫の焼き肉を食べたが、スプーンでコーヒーをくしゃくしゃかき回すと、太陽のせいですぐに目覚めた。もしわれわれが悪魔にとり憑かれているとしたら、それは一人のあくまではありえない。彼らはいったいどこにいるのか?
あるとき頭をカッカとさせて会社の同僚一人一人をボンボンと叩いた。それがもちろんだれにも重傷を負わせないのは、簡単にはぼくをふり切ることはできなかったからだ。ぼくは外へ向かっては頑固で、内においては冷たい人間だ。ただ身を支えるためにこんなやり方で回復に努めなければならない。何かの特定の仕方で自己を展開したくはない。書くこと自体がぼくの悲しい気分を増大させるだろうからだ。ぼくは君じゃ物足りないんだ。
(この日記は全文をマックス・ブロート編『決定版カフカ全集7 日記』(谷口茂訳、新潮社、一九八一年)から文や語句を引用し組み替えることで記述しています。)