いつもより一時間程度早く起きる必要があって前日から憂鬱だったが、すんなり目を覚ませて驚いた。妙に気分がよいのは独自ドメインを取得した高揚感が続いているせいかもしれない。
Twitterにて「ドメイン」でフォロー内検索をかけるとライター/批評家のimdkmさんが2020年11月に「これはお得情報ですが、独自ドメインを自分の名前(ハンドルネームなど)でとるとマジで面白いのでおすすめです。サーバーも借りるとなおよい。」とツイートをしていた。ドメインを取得しただけでおもしろみに溢れてしまうのはじぶんだけではないらしい。実際、私はなにもわからないままドメインを取得し、なにもわからないまま愉快になっている。たんにじぶんにとって馴染みの文字列の末尾に.comなどがつき、そこへアクセスできてしまうというだけで、そんな些細なこととは思えないほどなぜか妙におもしろくなってしまっている。なにもわからなくても大丈夫だから、服を買うくらいの感覚でドメインを取得する嗜みが広がればいいと思う。かっこいい服を着るとたのしい。ドメインを取得するとたのしい。
ちなみにこのサイトでも使われている「mu4real」という文字列。元祖はTwitter IDの「mu_4REAL」から誕生し、他のSNSに登録するたびにアンダーバーを増やしたり減らしたりしながら使いまわしている。たまに違うひと感を出したくなってまったく異なる文字列を使用したり、ユーザー名のむぅむぅに合わせて「mumu」にしてみたりもあるが、まあ半分以上はこれだと思う。
高校生の頃、イギリスのロック音楽をよく聴いていて、特にManic Street Preachersが好きだった。通称・マニックス。「二枚組のデビューアルバムをリリースして、世界各国で一位になって解散する」と舐めた口を叩いていたマニックスに、NMEの記者がどこまで本気なのかと問い詰めたとき、ギタリストのリッチー・エドワーズが自らの左腕に「4REAL」と剃刀で刻み込んだ、という有名な話がある。その「4REAL」に、本名の「ムトウ」から抽出した「mu」を加えてつくられたのが「mu_4REAL」であり、べつに深い意味もなく、なんとなくちょうどいいと思ったフレーズを周囲から探して適当に決めたはずだ。そのなんとなく決めた文字列に対し、繰り返し使いまわし、そのIDに紐づいたアカウントを繰り返し使用する日々を経て、いつのまにか自分らしさめいたものを抱えてしまっている。オフラインで「mu4REALさん」と呼ばれたら反応する自信がある。そもそも戸籍上の名前がすでにそうであるのだから、勝手に決められたりなんとなく決めたりしたものが「私」に取り込まれていく様子はいたって普通のことだとは思うのだが、ネット用に身につけた「4REAL」に、ほんとうに「for real」性が帯びているのはどこかおもしろい。あるいは考え方が逆で、適当な記号が何度も何度も反復する過程こそが「私」を仮構していくのだろう。インターネットで「4REAL」を名乗った以上、インターネットで本気になる以外に、私は私でいられない。
自分の体験を思うに、SNSのIDをランダムの文字列にしているひとは小さなたのしみを得る機会を逸していると思うし、そういうひとはドメインを取得してもおもしろくならないかもしれない。どちらかといえば服を買ったりおいしいごはんを食べたりすることをお勧めしたい。