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日記210323

 スマートニュースを開くと五輪聖火リレー出発式に関する記事がいくつか並んでいて、あまりに現実味がないが現実であることが確からしいその報道に鳥島伝法『るん(笑)』を読んだときの感覚を思い出す。『るん(笑)』は迷信やおまじないや似非科学などのいわゆる「スピリチュアル」なものを盲信するひとびとを描いたお話で、そこで営まれる異様で異質な生活習慣に笑ってしまったり恐怖を覚えたりしながら読み進められる一方で、突拍子のないような生活様式が現実でもたびたび見かけるような話にも思われ、スピリチュアルな世界を生きる自らに気づかされる、読んでいて頭がクラクラしてくる小説だ。スピリチュアルなフィクションがたんにリアリズムであり、現実からそう遠くない地続きの世界であるという、そのクラクラ感を、この頃の五輪関連の報道から感じてしまう。そもそも開催する気らしい、だけど海外客の観客受け入れは見送るらしい、開会式の演出チームでは統括ディレクターによるパワハラや容姿侮蔑が行われていたらしい、そういえばつい先日もオリパラ組織委員会の会長が女性蔑視発言で引責辞任したらしい、代表選手の選考はもちろん進んでいないらしい、国の首相は聖火リレー出発式を欠席するらしい、その他云々、すべてが銀河の果ての遠い惑星での出来事のようでどこまでも空虚でしかないのだが、これが現実と地続きどころかたんに地であるらしい。各社の記事で昨年二月にリハーサルを行う石原さとみさんの画像が使用されていて、にこやかな表情に居た堪れない気持ちになる。

 デリダの『絵葉書』を読み進めている。百ページを超えたあたりからさっぱり付いていけなくなり、テクストからみるみる振り落とされていく。『絵葉書』は精神分析(フロイト)について分析した論文で、そもそも精神分析にまつわるあれこれやフロイトの一冊も読んでいない私にははじめから読み解けるわけがない。頭を抱えながら数年前にフロイトの『精神分析入門』を序盤だけ読んで放ったらかしにしていることを思い出す。しかし理解できずとも粛々と文字を追い続けているとたまにピンとくる部分があったり書簡という形式が提示するおもしろさを見つけたりする。そこに付箋を貼る。まったく理解できないけど文のテンション的に重要らしく思える箇所に付箋を貼る。根気強く、黙々と、粛々と文章と向き合う。読書は我慢に近い。数年前はフロイトを読み切る我慢がなかったが、いまはデリダを読み切る我慢がある。

 職場で賞味期限の過ぎたどら焼きをもらう。もらう前に、賞味期限切れだけど大丈夫?と訊かれた。ほんの数日前だから大丈夫だと思うけど、と一言付されて、じぶんもそう思ったから素直に受け取った。賞味期限というのもある側面では似非科学に似ている。帰宅して、もらったどら焼きを食べると、生地がパサパサしていた。

カテゴリー: 日記