ここ一週間ほど、出勤時に九段下のスギ薬局に寄ってヘルシア緑茶を買っている。ヘルシア緑茶を買う前はローソンでプライベートブランドのジャスミンティーを買うことが多かった。ジャスミンティーの前は緑茶だった。二月頃に体調不良が長くつづき、自律神経の乱れも感じていたから、カフェインを控えようと思って緑茶をジャスミンティーに切り替えた。体調が比較的安定してきたと思ったら、今度は連日襲いかかってくる日中の眠気に耐えられない。やはりカフェインに頼らずしてまともな生活は送れないなと思い、コーヒーよりもごくごく飲めそうという理由から、また緑茶に戻ってきた。緑茶を飲む目的のいちばんに眠気防止を設定している以上は、カフェインの含有量が多いものが好ましい。ドラッグストアに陳列されたお茶の成分表記を見たところ、どうやら特茶はカフェインを多く含んでいるらしい。しかし、カフェイン含有量こそ下回るが、カテキンの含有量を見るとヘルシア緑茶の方が多いようで、さらには値段も特茶と比べて安い。カテキンが多いということは、お茶の渋みも濃いはずで、濃いめのお茶がすきだということも加味した結果、ヘルシア緑茶の購入に至る。
勤務中にヘルシア緑茶を飲んでいたところ、隣の席のひとから「きみはヘルシア緑茶を飲む必要はないんじゃないか」と指摘をされた。上記のとおり、飲む必要は大いにある。カフェインを摂らなければろくに身体を動かせず、濃いお茶の味も好みである。にもかかわらず、ヘルシア緑茶を飲む必要がないと言われる所以は、むろん「ヘルシア緑茶」や「特定保健用食品」などの記号性による。「内臓脂肪を減らすのを助ける」とラベルに大きく書かれたヘルシア緑茶は、「脂肪の分解と消費に働く酵素の活性を高める茶カテキンを豊富に含んでおり(540mg/1日の摂取目安量350ml当たり)、脂肪を代謝する力を高め、エネルギーとして脂肪を消費し、内臓脂肪を減らすのを助けるので、内臓脂肪が多めの方に適して」(花王 | 製品情報 | ヘルシア緑茶 [350ml] – Kao より)いるとのことだ。それを飲む私はといえば、内臓脂肪が著しく少なめであり、身長が一七八センチもありながら体重が五〇キロ程度しかないとだけ言えば、その痩身ぶりは容易に伝わるだろう。この点だけ見れば、たしかに私はヘルシア緑茶がターゲットとするお客さんではない。しかし、言うまでもなく、ターゲット外であることは必要がないことにはつながらない。茶カテキンがもつ脂肪の分解と消費に働く酵素の活性を高めるという性質は、あくまで数ある性質のひとつでしかない。そのたったひとつの性質を、「ヘルシア」「トクホ」「内臓脂肪を減らす」などの単純な記号でパッケージングすることで強調し、商品としているに過ぎない。だから、ターゲットの外側はいくらでもあるし、強調された要素の外側もいくらでもある。あるアイコンをアイコンとしてのみ消費することは、そうした象徴化されていないいくつもの要素を無化し、世界を単純化させる。もちろん単純化によって何らかへの理解が進むことも多分にあるが、繊細さの放棄にばかり陥ってしまうようではあまりに乱暴だ。「きみはヘルシア緑茶を飲む必要はないんじゃないか」との指摘はしょせんはジョークとして言われているだけであり、まじめに応答する類のものではないが、こうして迂闊に発言してしまった冗談がときにひとを傷つけることもあるのだろう(あるいはすでに誰かを傷つけていて、そのことに気づかずにいるのだろう)と思いながら、ヘルシア緑茶を口にする。
日記210414
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