日本酒について書かれた本をつまみ読みする。じぶんが秋田県出身であることをひとに伝えると、じゃあ酒に強いんだ、と決まって言われる。「じゃあ」の根拠がいまいちわからずいつも適当に話を流していたが、酒の話を振られる機会が多いことは事実なのだから、地元の酒について少しくらい知っておくか、とは以前から思っていた。吉田元『近代日本の酒づくり 美酒探求の技術史』によれば、秋田はもとは酒造後進県だったという。東北日本海側の高級酒といえば羽前大山(現・山形県鶴岡市)の大山酒であり、そもそもある時期まで東北地方の酒造は全体的に米の質も悪く、精白も未熟で、いい酒をつくるためにはかなりの改良を要したらしい。大正七年に仙台税務監督局鑑定部(酒造業者の指導を行う部署のようだ)に花岡正庸というラディカルな酒造技術者が配属され、花岡の過激な酒造改良論には多くの反発が集まったが、なぜか秋田県の酒造とは気が合った。大正十一年に設立された秋田銘醸株式会社の顧問を務めるほどに秋田酒の指導に熱心だった花岡の功績もあり、酒の品質は向上し、着実に品評会でも入賞するようになったとのことだ。生きていく上であきらかに不要だし、さほど関心もない知識だが、こうしてどうでもいいと思えるような情報を見聞きする時間があることは必要であるように思う。たとえば政治などの長期的で広い視座を持って考えなければいけないようなことも、いまを生きることだけに集中していたらどうでもいいことであり、多忙ゆえにいましか見えなくなってしまっていたら、それはやはり浅薄で短絡的な判断に陥ってしまうだろう。それどころか真面目に身構えるまでもなく、詩や小説を読むことだって、これ以上ないくらいにどうでもいい営みだ。どうでもいいことについて知ったり考えたり話したりできる時間を大事にしたい。
夜ごはんでもつくろうかという時間に、急な眠気に襲われて、少しだけと思いながら横になった。目を覚ましたら二時間以上も眠っていたようで、こうして変な時間に眠りこけてしまうのもひさしぶりだなと思う。食事をしないまま、日記を書き始める。今日は外出をしなかったから、明日は出かけられるといい。
日記210428
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